スズキ パレット MK21S
H22 90,000㎞
メーター内のACC(アクセサリー)表示灯がキーOFFにしても消えないということでご入庫いただきました。
いつも車検のブログばかりで故障診断修理の記事は久しぶりな気がしますが、ちゃんとこういう事もしております(笑)
では、まず現象をしっかり確認していきましょう!
エンジンの始動は良好で、走行も問題なし。
エンジンを止めるためにスタートスイッチを押してOFF状態にすると・・・
通常は消灯しているはずのメーター内の「ACC」が点灯します。
メーターのその他の表示灯はしっかり消灯し、他に作動していそうな装置もありません。
降車してドアロック・アンロックも問題ありませんでした。
ちなみにACCとはアクセサリーの略称で、オーディオやシガーソケット等に電源を供給するモードです。
プッシュスタート式の車両では、ブレーキを踏まずにスイッチを押すと、OFF→ACC→キー(イグニッション)ON→OFFとなります。
印象としては、特に不具合は起きていない…けど、ACCだけ点灯している。といった感じでしょうか?
ACCで電源供給されるシガーソケット部も正常作動しており、ACCでは電源が来ており、OFFにすると充電器の青いライトが消えます。
ただ、ナビは故障しているのか、ずっと真っ暗な状態となってます。
不具合症状を確認出来たので、スキャンツールを繋いでコンピュータ関係の診断をしていきます。
スズキ車は純正診断機「SDT-2」で診断していきます。
故障コードは出力なし。
(AC(エアコン)は屋内だと日射センサー異常が出力するのは正常です。)
と、スタートスイッチを何度か押してOFF→ACC→イグニッションONを繰り返していたら故障コードが出力しました。(エンジンかけると消えるようです)
BCMに「B1191 ACCリレー系統異常」と今回の不具合と関連がありそうな故障コードが入っています。
※BCM(ボディコントロールモジュール)は車内外の照明、ドア、窓、ミラー、ワイパーなど車載ボディ電装品全般の機能を制御するコンピュータです
整備要領書で故障コードの検出要件を調べると・・・
ACCリレーをON制御しているにもかかわらず、“ACC”ヒューズ経由の入力電圧が診断下限電圧以下になった
上記時にこの故障コードが出力するようです。
次にBCMデータの点検をします。
「ACCリレー」という項目はスイッチに応じてON・OFFと切り替わって正常作動のようですが、「ACCスイッチ」は常にONのままです。
先程の故障コードが検出されるタイミングはイグニッションON状態からスイッチを押してOFFにする時(ACCリレーOFF)なので、検出と反対という状況なのでちょっと違和感があります。
おおよその症状と故障発生箇所の確認が出来たので、整備要領書で関連するシステムの制御がどのようにされているか、回路図などを見て、しっかりとシステム制御を理解します。
キーOFFからプッシュスイッチを押してACCモードにするときの作動は
①プッシュスイッチからの信号がBCMに入り、BCMはACCリレーをONさせます。
②リレーがONすると、ACC電源がメインヒューズボックス→ACCリレースイッチ部→ACCヒューズ→各電装品へと供給されます。
BCMの「ACCスイッチ」という項目はACCヒューズから供給される電源によってONと認識します。
③「ACCスイッチ」項目がONになると、BCMはメーターのコンピュータに「ACCがON」という情報を送信し、メーターのコンピュータはメーターに「ACC」を表示させます。
④ACC→イグニッションON→OFFとプッシュスイッチを押すと、BCMはACCリレーをOFFして、ACC電源の供給がストップして、メーターのACC表示は消灯します。
正常作動はこのような感じですが、このパレットはどこかで異常が起こって「メーターのACC表示が消えない」症状が発生しています。
ここから原因を探求していきます!
運転席の足元にヒューズやリレーがあるジャンクションボックスとBCMがあります。
まずは、ACCリレーが怪しいと睨み、取り外して単体点検をしましたが、異常なし。
さらにリレーを外してもACC表示は点灯したままです。
次に、リレーから下流に向かい「ACCヒューズ」を点検します。
ACC時の電圧はヒューズ上流・下流とも12Vと正常。
単体で点検しても異常なしです。
ヒューズ取外し時もACC表示は点灯したまま。
で、キーOFFにして電圧を測定してみると・・・「7.3V」
正常時は0Vなので、どこかから電源が回り込んでいる可能性があります。
ただ、ACCリレーは単体点検時に外しましたが、ACC表示していたので、ACCリレーから7.3Vが来ている可能性は低いです。
では、どこから来ているのか…ここからはACC電源を使用している装置をしらみつぶしに確認していきます。
とは言え大変なので、動いていないナビが怪しいので、簡単に点検出来るその近辺を調べていきます。
先程調べたACCヒューズと同じ場所に「RADIO」というヒューズもあります。
こっちは常時電源をオーディオに供給しており、簡単に確認出来るので、電圧測定や単体点検をしてみました。
すると、ヒューズを抜いた瞬間にメーターのACC表示が消えました。
ACCヒューズの電圧も測定すると、「0V」と正常。(不具合時は7.3V)
RADIOヒューズを挿し戻してもACC表示は点灯せず正常ですが、一度ACCやイグニッションON状態にすると不具合が再発します。
ここまで来ればナビが怪しいので、ナビを脱着して点検していきます。
ナビはパナソニックの「CN-MW100D」というナビ。
おそらく十数年前のナビだと思います。
とりあえずナビのコネクタを外してみると…ACC表示が消えました。
やはりナビが悪さをしていたようですね。
ナビの回路図をネットで探して、さらなる原因究明をします。
点検の結果…
・ナビの配線には2本の常時電源配線(バッテリー15Aとバッテリー5A)があり、5Aの接続を外すとACC表示が消える。
・ナビのアクセサリー配線の車両側とナビ配線のギボシ接続を外すと、ACC表示が消える。その状態で車両側配線の電圧は0V、ナビ側配線は7.3V。
・イグニッションOFF状態でナビのコネクタを外して再接続した状態では常時電源配線から電源がナビに供給されているが、アクセサリー配線は0V(正常)。そこからACCをON→OFFにすると、アクセサリー配線は7.3Vになる。
つまり
①ACCをONすると、ナビにアクセサリー電源が供給されナビを起動しようとするが、ナビが壊れているため起動しない
②ACCがOFFの時に、バッテリー5A配線からの電源がナビ内部不良でナビのアクセサリー回路に7.3Vを発生させる
③ナビ内部で発生した7.3Vはナビのアクセサリー配線→BCMへと逆流するように供給され、BCMはACCスイッチONと誤判定
④BCMはメーターに情報を送信し、メーターにACC表示が誤点灯する
不具合時はこのような流れだったようです。
この点検結果をお客さまに報告して、とりあえずナビ配線コネクタを外して作業は完了となりました!
このような不具合はレアケースではありますが、どの車両でも発生する可能性があり、原因を究明するにはかなりの時間を要する場合もございます。
ですが、実際に行った【作業】は「ナビのコネクタを外す」これだけです。
いきなり直感でナビのコネクタを外せば、15分で終わりです。
ブログにも長々と書きましたが、費やす時間のほとんどは原因究明のための【診断・点検】で、この【診断・点検】というサービスに対して対価をもらっております。
仮に今回の点検を正しい順番で正確に実施し、原因を究明した結果2時間かかったとします。
その場合、点検に対して「13,000円の技術料」が妥当な請求金額になりますが、お客さまにこの「妥当な請求金額」とご理解いただくのが非常に難しいと実感しております。
お客さまにとっては「ナビのコネクタを外した作業」だけが体感できる変化・結果です。
点検が数秒でも、数時間でも、数日かかっても実際に見聞きしないと、それに対する対価の妥当性を見出すことは出来ません。
当社としては、適切な【診断・点検】については、かかった時間に応じた妥当な対価をご請求させていただきたいと考えております。
もちろん、誤診や誤った方法などで余計にかかった時間などは除きますが、それも含めて診断・点検の工程や結果をお客さまに丁寧に説明をすることで、「妥当な請求金額」と感じていただけるよう努力いたします。
お客さまにもご理解いただけますと幸いです。
ご入庫ありがとうございました!
【カテゴリー】一般修理